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【うた腐リ】ついったのあれ

某月某日、僕らは目にした。まるで風が吹くかの様に自然で、生き物が呼吸をする事の様に当然に、それは訪れた。今までそんな素振りは微塵も見せていなかった癖に。何の前兆も前触れもなく、当たり前であるかの様に彼らは会話をした。言葉を交わした。僕たちが見ている目の前で。始まりは単純な一言だった。これは何かの見間違いなのではないか。僕たちは目を疑った。しかしそんな事を知る由もない彼らは悠長に会話を続けている。挙げ句の果てに同じ仕事のオファーが二人に来ていると、今日はその打ち合わせなのだとまで宣う始末だ。頭を抱えた。ひどく動揺した。心臓が早鐘を打っている。呼吸が上手くできない。落ち着け、落ちつくんだ僕。そう思えば思うほど、どうしたら良いのか解らなくなっていく。気づけば頬を涙が伝っていた。口から出るものは言葉とは到底思えない嗚咽ばかりだ。一体何が起こったというのだ?混乱から回復しきれないまま、更に彼らの続報を待った。打ち合わせを終わらせた彼らが戻ってきた。他の面々が小さな打ち上げにも似た物を開く中、まだ仕事先の彼らはまたしても信じられない様な言葉を言ってのけたのだ。「一緒に夕食を食べに行く」のだと。どういう事だ?一緒に?何を言ってるんだ君たちは。本当に突然どうしたというのだ。今までの企画で君達が一度だって話した事があっただろうか?否、なかったのだ。一度会話しただけでもどうしようもなかったというのに、追い討ちをかけるかの様に食事に行くのだと言う。これ以上僕たちを殺してどうするつもりなんだ、教えてくれ。僕は悲痛な声で叫ぶと同時にまた涙を流した。嬉しい、嬉しくてたまらない、しかしこれは夢なのではないだろうか。いやいっそもう夢で構わない。だからどうか覚めないでくれ、必死にそう願った。1時間半ほど経った頃、食事を終えたのだろう彼らが三度浮上した。そして言ったのだ。彼が。一言を。「聖川と帰宅中だぜ」と。はっきりと。とにかくたった一行の文章を何度も読み返した。何度も、何度も、何度も。どう読んでも「聖川と帰宅中」だと書いてある。間違いない。どうなっている?手は繋いでいるのだろうか?しっかり隣を歩いているのだろうか?もう一方の彼が浮上しないのは恥ずかしいからなのだろうか?聞きたい事は山ほどあったが、それは野暮というもの。だからこそ僕は声を大にしてこう言いたい。翔マサクラスタはついに勝利したのだと。

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2013-06-21 02:39

 kzm


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