【絵とSS】スミスさんと黒猫

彼との出会いは2ヶ月前、肌を突き刺すような冷たい風の吹く日だった。

自宅付近の植え込みの影に、黒猫が小さくうずくまっているのを見つけた。

どうやら様子がおかしいので覗き込むと、何かの事故に巻き込まれたのか、右目を負傷していた。

低い唸り声を発しながら弱々しく抵抗する黒猫を抱えて、動物病院へ走った。

右目はもうどうにもできないと言われたが、幸い、命は助かった。

ただ、
体もまだ小さい隻眼の猫を、またあの寒空の下へ帰す気にもなれず。それどころか彼のじっとりとした目つきに愛おしさすら感じはじめてしまい……

「これも何かの巡り合わせかもしれないな……」と、俺は神の導きに従い、彼と暮らすことを決めたのだった。



彼は人間に対する警戒心が強く、頭を撫でようと手を伸ばしただけでシャーッと牙を剥かれたり、時には鋭い爪を突き立てられたりもした。

勤務先の仲間に心配されるほど、俺の手には生傷が絶えなかったが、彼の右目の傷に比べればこんな痛みなど何ということはない。

とにかく彼に余計なストレスを与えないよう、過剰なスキンシップは控えることにした。

それでも我ながらせっせと健気に世話を焼き続け、季節は春になった。そして時間とともに、彼の振る舞いにも変化が見られるようになった。

ようやく俺のことを敵ではないと認識したのか、触れられることを嫌がらなくなった。

それと何より大きな変化としては、俺が読書をしていると、邪魔をしにくるようになったことだ。

まるで「こんなところに丁度いい寝床があるじゃないか」といった表情で、開いた本の上にわざわざ座り込んだり、本から垂れ下がったブックマークの紐で一人遊びを始めたりする。

そんなあからさまな行動に思わず笑いがこみ上げたが、彼のほうからコミュニケーションを求めてくることがただただ嬉しかった。

言わずもがな、こういう行動は、飼い主にかまってほしいというサインなのだそうだ。

頭を撫でてやると、彼は左目でゆっくりと瞬きをしながら、ゴロゴロと喉を鳴らした。

そうだ。すべては、この瞬間のためだった。

きっとお前は、あのときあそこで俺を待っていたんだよな。俺にしかお前を救うことが出来なかったんだよな。

誰になんと言われようと、俺にはそうとしか思えないんだ。



……それでは遠慮なく、これからもずっと、愛情を注がせてもらうとしよう。

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2020-03-03 23:22

 こずは


Comments (5)

#happily 2020-12-23 23:26

このエルヴィン愛おしいな

たんしお 2020-03-05 20:55

すてきです・・・!

2020-03-04 18:27

So beautiful!!

caho 2020-03-04 00:40

しゅき

✿カヒ✿ 2020-03-04 00:32

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